「波と海」|初出=個展「波と海」(2024年5月 マキファインアーツ/ Maki Fine Arts)


波と海

 

海のある街に移住して八年が過ぎる。とりたてて海のレジャーに興じているわけではないが、海辺を歩き、眺め、子供達と過ごし、海の景色は日常の一場面になった。もちろんいいことばかりではない。海に包囲された地震大国のこの国で、海の近くに住むリスクもそれなりに理解している。海の恩恵もリスクも感じながら、一方、海を題材にした数多の絵画や写真、アートが海を見るたびに脳裏をよぎる。新しくもないありふれたテーマであることは承知しているが、自分も海を題材にした制作を行うことは避けられないように思えた

制作はいつもランダムに撮りためた凡庸な写真を見返すところからはじまるが、ひとつの題材に絞って撮影するのは今回が初めてだ。展示作品に使った写真は二千枚を超える中から選んだが、選ばれなかった写真はもとより「撮られなかった写真」の数はその比ではない。それに付随する「描かれなかった絵画」も同様に。波のように終わりなく現れては消え去る選外の存在なしには、ここにある作品はなかったはずだ。