Tracing Newspaper in Paint


新聞に載っている写真を毎日眺めている。それらはいま世界で、社会で、地域で起きていることやそれに関わる人々、風景を写している。世界を知る困難さは承知の上で、しかし今自分が立つこの場所と地続きの出来事なのだという実感を得たい。被写体(写真の向こう側)に触れることは出来ないが、写真に触れることはできる。絵筆で写真に触れながら被写体をなぞり、写真の上を写真と同じ絵で覆っていく。この作業によって分からないことを知りたいが、知り得ないということを確認するばかりだ。とてつもなく不毛な作業に思えるが、自分にとっては見ることの不確かさを確かめる方法の一つである。そして不確かさは一つの実感として立ち現われる。

作品は絵以外をマットで覆い額装して絵画に仕立て、読み終わった瞬間に捨て去られてしまう画像に新たな価値を吹き込みたいと思う。また、すべての作品は地域面と国際面が並置された紙面を抜き出し、使用している。このシリーズは東日本大震災後の2011年頃から2013年にかけて集中的に制作した。