Drawing (2015~)


写真の周辺全体をペインティングで描き足す“A Sense of Distance”のシリーズから連なるドローイング。以前は写真から想起する風景や場の記憶、あるいはその不確実さが主題になっていたが、近年は写真の細部、具体的には風景の中で小さく写る人物に関心が向く。彼らはその場に偶然通りかかり、写真に写り込んだ他者である。彼らかしてみれば私も同様であり、互いに無関心である。しかし関心の有無に関わらず私が在るように彼らも在り、両者は決して無関係ではなくその瞬間、その場所で何かしらの関係性を共有していた。私は写真を眺め、写真の中で彼らを再発見する。

彼らの存在を確かめるように彼らの続きを描き、あるいは彼らの周囲を塗りつぶし、その存在にフォーカスする。そしてその作業は、彼らにとって無関心な他者に他ならない自身の存在にフォーカスすることにも重なるように感じる。筆を加えながら凡庸なスナップ写真はそれ自体、存在の輪郭をよりはっきりと帯びてくる。写真の巧拙は大した問題ではない。